12年前に来たとき、そこは閉じられてまだ間もなかったのだと思う。
劇場には横断幕がかかっていた。
「劇場のない街には、文化がない」
もう一度劇場が開くことを望む若者たちが目の前の広場で大道芸をしていた。仲良くなると彼らは夜にまたおいでと言った。夜の帳が降りると、彼らは劇場の中に入れてくれた。(実際は一緒に壁を登って窓に足をかけて、こっそり中に忍び込んだ)
真っ暗な客席、真っ暗な舞台で、私たちは踊った。お互いにさえ見えない自由な踊り。
地球の反対側にいながら、その劇場のことはずっとどこかで気になっていた。
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灰色の空の下で絨毯をくしゅっと縮めたひだみたいな丘が広がっている。
劇場に行きたいと言うと、
「シアトロ行きのバスに乗ればいよ」
と通りがかったおじさんが教えてくれた。
と通りがかったおじさんが教えてくれた。
劇場の手前はバス停になっていた。
子供達も、犬も、大人たちも普通にその周りを歩いていく。売りますと書かれた車が劇場の車寄せに停められたままになっている。背の低いおばあさんが、私におはようと言った。
朝も夜も、人はそこからバスに乗って、隣の大きな街に出かけていく。
この町には何もないもの、と、時に笑顔で、時に真顔で言う。
中には入れてあげられないよ、と様子を見に来た人が言った。劇場の中には、本当に何ひとつ残っていないんだから、と。
もともとトリコロールの劇場の外壁塗装には無数の落書きがあった。細い文字でかかれた名前やメッセージが刺繍のように壁を取り囲み、ところどころに完成度の高いアートと、どきりとするメッセージがある。
じっと目を凝らしていると、何層にも絡まった落書きのディテールが解けて浮かび上がってくる。添えられた日付や、年も。
何年もかけて書き込まれた落書き。
次第に厚く囲まれていく中で、劇場は中から朽ちていく。
それをぐるりと囲んだ人の言葉は、
この劇場がなくなっても、空気の中で渦巻くのだろうか。
この劇場がなくなっても、空気の中で渦巻くのだろうか。

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