2016年2月27日土曜日

旅路


人と出会いたいなら一人旅だ。
ふたり旅はいつもバスの席がほぼ並びになる。


私たちの後ろに座ったふたりが、自己紹介をしている。
これから始まる11時間のバス旅。お隣さんとは仲良くした方がいい。
窓際の席の女の子と、通路側の男の子。
旅人同士の触れ合いの時間は、限られているからこそ、濃い。

バスに揺られながら、ウシュアイアで入った小さな売店のことを思い浮かべていた。
日系のおじいさんが切り盛りしているその店は独特の匂いがした。
あらゆる棚や冷凍庫、床にずらりと並ぶ食品や日用品から
微かに染み出して、混ざりあったような、年季の入った独特な匂い。

大きく手を広げて、情熱的に彼は語った。
地球をね、離れたところから見ている自分がいるんです。

一億二千万人のいったい何人が、国の外にでることができる?
世界の果てまで来れたことだけでも、私たちはラッキーなんです。

おじいさんは櫻井よし子の大ファンだと言った。
文藝春秋を読むのが楽しみなんですと。
いつか会うことがあったらこの名前を伝えてください、と
レシートの裏に何度も自分の名前を書いた。

その間に地元の人がやって来て、
ミルクと2リットルのコカコーラ、それとハムを買って行った。


湖畔にぽつん、ぽつーんと、質素な家が建っている。ここはまだ世界の果てなんだと思う。
ウシュアイアープンタアレナス
絶景というよりは、広大。

目が覚める度に車窓には、色合いが違う景色が広がった。


バスは、知らない街の知らないバス停に、ゆっくりとお尻から入っていく。

 it looks very cold... 女の子が不安そうに呟く。

where is the best place to change money? 男の子が聞いた。

i dont know. i have no idea 

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