2015年8月30日日曜日

がらん



雨の中の荷物を運び出して
ふらふらしながら帰ってきた家は
がらんとしていて、声がよく響いた。

匂いが違う!と夫が驚く。
最初に内見に来た時と同じ
建物の匂いがした。

今朝まで私たちの家だった空間が
「物件」に戻ったのを知った。

和室にごろんと寝転ぶ。
久しぶりに畳の匂いがする。
最初のころ襖を開ける度に香り立っていた
緑の匂いが懐かしく甦る。

この部屋の天井の梁に一目惚れして決めた家だった。

「家具をどかしたから香るのかな?」
色々言い合ってみるけれど、真相はわからない。

照明を取っ払った部屋は、ひとたび日が落ちると
あっという間に暗くなった。
残しておいたフルートのランプを付けると
明かりの温かさと同じくらいほっとする。

ここは、まだ私たちの家だ。

1階で夫がキッチンの掃除をしている音がする

わたしは寝不足が響いて、現実と夢の間に浮いている
感傷に浸るには 疲れて感覚がうまく機能しない

なにかオチをつけるにも頭が上手くはたらかない

そうして時間が過ぎていくことが惜しいなと思う

明日からは別の流れが私たちを運んでいって
この気持ちには綺麗に上書きされてしまうのに

0 件のコメント:

コメントを投稿